通夜

若い才能に讃歌を贈ったそのすぐ後で、哀しい知らせが待っていた。

ここ数年来、高知のマンションに泊まる時、良く通っていた居酒屋I。聞き上手な大将で、酔っぱらいの私は、いつも看板過ぎまで粘って下らぬ持論を展開し、大いに迷惑をかけていた。岡惚れした高知大の女の子(うちの嫁はんの後輩ということ)もいたりして、楽しい酒を呑ましてもらったが、何と言っても私がこの店に通ったのは大将Iさんの人柄によるものである。ただの低姿勢でもなく、馬鹿でもなく、飄々とした中に得がたい味があって、私の貴重な止まり木であった。

ことに閉店時間の十一時にバイトの女の子が上がる時、毎夜毎夜同じ調子で「ありがと、ありがとう」と満面の笑みで投げ掛けるねぎらいの言葉が、当たり前の様で、誰彼に出来るものでなく、人様に素直に感謝を表すのが苦手な私には、奇特かつ尊敬おくあたわざる態度に感じ、深い酒の中に実に反省を覚えたものである。

そんな、私より遥かに人間的に勝った人が、独立後数年をして、敗退する。資本主義の原理をいやと言うほど分かった上で、世も末という感が否めないのは、また揺るぎない現実なのである。人間性を失わずに、自分の夢を叶えること、これは結構難しいことかも知れない。現代においては。

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