あらや三たび

今日は問屋さんの内見会で石川県の山代温泉へ。毎年恒例の行事だが、ここ三年続けて、魯山人ゆかりの宿「あらや滔々庵」が会場である。
玄関を入るとまづ福田大観時代の魯山人の烏の衝立が目を引く。


ここは鎌倉時代に行基が行脚の途次、一羽の烏が水溜まりに足を浸けて傷を癒しているのを見て村人にそれが温泉であることを教え、山代温泉の開湯となったという大元の烏湯の場所で、代々主人は加賀のお殿様の湯番として鍵を預かって来たという歴史ある宿である。

料理は北陸の山海の味を盛り込んだ懐石料理である。


まづは焼き茄子のこごりに雲丹ののったのや柿と葡萄の白和えなどの八寸。


白和えの入った、菊に薄文様の小器が、染帯にしたらさぞよかろうと思わせるいい絵付けである。


続けて椀物。この石榴の蒔絵がなかなかいい。懐石の中でも椀物に格別の思いがある私としては楽しみ半分、恐ろしさ半分で蓋を取る。


椀種は油目(ここらではハチメというらしい)、無花果、満月形の玉子豆腐。スッキリした後口。にごりのない、澄んだ口当たりである。椀物さえクリアすれば大体その日の料理は不安なく食べられるものである。

造りは九谷の小皿にひらまさ、赤イカ、甘鯛、平目のあさつき巻き、かますの砧巻きがこじんまりと盛られる。もったいぶって大きな器に飛び石みたいな盛り付けで出て来る造りが大嫌いな私には、よほど好ましい。写真の撮り忘れはご容赦。


次は柿のふろふき。ちょっと渋が感じられたがこういう物か。


焼物はお約束のノドグロ、米茄子の田楽。器は乾山楓。


そして仲居さんが世話を焼く貝焼き。鮑、ばい貝、アボガド、焼き大根、若布を肝ソースでいただく。焼き大根が滋味。


最後は毛ガニの酢の物 。土佐酢のジュレ、金時草、太胡瓜、かにみそが添えられる。


〆の御飯はトロロ飯に白山なめこと豆腐の赤だし。この赤だしが絶品。網目文様の唐津の御飯茶碗が私好みでお代わりがすすむ。
総じて嫌味の無い、気持ちの良い料理であった。



私はここの三つある湯殿の中でも洞窟風の烏湯が大好きで、これが無かったら三年も続けて同じ宿に来なかったであろう。誰もいないこの湯に入ると何とも言えない気分になる。やや大袈裟に言えば、神秘的でさえある。

かくしてゆっくりしたのも束の間、明けて今日は全神経を動員して秋の展示会用の仕入れをし、片道六時間掛けての帰路につくのであった。

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