最長老交代

我が国の女優のなかで最長老であった長岡輝子さんが102歳で亡くなった。
これでとうとう明治生まれの俳優は絶滅し、女優としては大正六年生まれの山田五十鈴先生が最長老という事になる。
新劇女優として数少ない演出家(私の知る限り他には岡田嘉子と北林谷栄のみ)でもあり、一般には「おしん」の奉公先の大奥様役が知られているが、晩年の仕事として宮沢賢治の朗読を外す事は出来ない。
私は劇場で二度ほどお見かけしただけで、直接のお付き合いは無かったが、長岡さんと言うとすぐ頭に浮かぶ話がある。

これは岸田今日子さんと加藤治子さんから聞いた話だが、昔、文学座に在籍していた長岡さんが、新劇団の訪中公演に参加した時、周恩来首相主催の歓迎パーティーに出席した。その時の話。

「あの時ね、周恩来ってちょっといい男でしょ、杉村(春子)さんが周さんに秋波を送っちゃって、あたし困っちゃったわよ」

ちょっといい話である。
相手が外国の首相であろうが何であろうが、「あら、いい男だわ」と思うと自然にポーッとして色気が出る。これが杉村先生の可愛い所であり、九十過ぎまで初々しいチャーミングさを保った源泉である。
同じことを山田五十鈴先生もテレビで言っていた。たとえ実際の交渉がなくても、街で見かけた男性に、「あらちょっといい感じ」と思うだけでも若さを保つ源になると。

また長岡さんの「秋波を送る」という表現も大時代で好きだ。「色目を遣う」なんて言わないところが明治女の見識であり、東洋英和出の教養である。

またまたこの話を私にしてくれた岸田加藤両姉の、ちょっぴり意地悪を含んだ話ぶりが、いかにも女優の内緒話という感じで、私は儲かった気分であった。

女優と書いて、女の中の優れもの、と読む。

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