日本名優列伝

午前一時半、スーパー銭湯から帰って何げなくテレビをつけ、地上波に面白いのがないので、スカパーのチャンネルを転々としていると、高倉健主演の東映やくざ映画「望郷子守唄」がちょうど始まったところ。どうしようかと迷ったが、見始めると面白い。

昭和47年といえば自分の生まれたばかりの時代で、その時分の大人たちがどんな娯楽を楽しんでいたかを知るだけでも意味深いものがある。
テーマ曲からしていかにも任侠映画で、おきまりの味全開であるが、さすがに日本映画の絶頂期から十年以上たっており、いたる所にマンネリやチープさが現れており、それが実に味わいである。

現在では、完璧無比な役しかやらない印象のある高倉健が、意外にドジで女にふられるダメ男。が、最後は斬って斬って斬りまくる、という黄金の予定調和。
これを支えるのが、黄金の助演陣である。

母親役の浪花先生、巧すぎ。関西弁の達人は九州言葉を喋らせても、やはり凄腕であった。これでなければ大女優山田五十鈴がけむたがりはしない。でも浪花先生、肌がきれい過ぎるとこだけ、田舎のおっ母さんじゃない。ここが、浪花千栄子と飯田蝶子の違いである。

他に軍隊の上官役の山本麟一、ずる賢いヤクザの親分役天津敏、ストーリーの為だけに殺されてしまうチンピラ汐路明など、全盛の東映を引きずったいい役者が何人か出ていて愉しませる。平成も二十年ともなれば顧みる人とてなかろうが、天津敏なんて人は、言わば映画の脇役の人間国宝みたいなものである。月形さえ何の栄典も受けてないのだから、天津においておや、である。

そんな中、一番心に残るのは、軍医役の藤田進である。私はこの優には、高校生の時、高知東宝会館でのオールナイト名作上映会で観た黒澤明デビュー作、姿三四郎で初めてお目にかかった。とは言いながら、実はこの時、世界のクロサワの処女作を観ようと息巻いた私たちの眼前に現れたのは、三浦友和主演、おまけに森繁が坊主で助演のカラー版であった。カラーの時点でおかしいのに、森繁が特出的役で出た瞬間、これは間違いだ!と気付いた16才の私はまだまだ初心だった。

で、藤田進である。
いい。心底惚れるね、こんな役者。技巧という物が全く見えない。もったいないくらい、さらさらっと、自分のおいしい持ち場を流して行く。
それでいて、戦前の日本人の美学というものを、この人ほど体現した優はあるまい。
現代人、いな、戦後日本人の最も醜き価値基準、「利口」という名の自堕落に対して、この人の面魂ほど、無言のアンチテーゼはない。

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