京の名店その三

前から一度行かなくては、と目を付けていた京都の老舗の一つ「うぞふすい わらじや」に初見参す。


以前近くの美術館へ行った帰り道、歩いて通りかかってそのただならぬ気配に惹かれ、京都の友人たちに聞けば「そんなもん有名よ」との返事。また「あそこは昼行くとこ、夜は頼んない」との明確な答え。こういうシンクタンクを抱えているから、京都の食いもん屋では、失敗することがほとんどない。まさに裏ミシュランであり、地場ミシュランである。

で、昼間に行ける折りを待っていたが、時季も時季とて丁度良く、顔見世観劇のの日、むーちゃんとまーちゃんと三人で乗り込む。


豊臣秀吉が一服したと伝えられるだけあって、門構えからして歴史を感じさせる。


中庭を通って茶室と呼ばれる一間へ。


天井の網代が黒光りしているのも時代がかっていていい。すっぽんでも水炊きでも、鍋はやはり「おお、さぶっ!」という様な陽気になって、しかもすき間風の吹くような古い座敷で食べてこそである。


まずは店名が刻まれた小さなお菓子とお薄が運ばれて来る。


お茶は濾して無いらしくダマがあったので早速ツッコミまくり。

「ちょっとダマやわ、中村ダマオ言うてねこれ!」
「いやホンマ、ダマ助やわこれも!」とか何とか、一つ事をどんだけ膨らまして面白がるんやろ、と自分たちで思いながら最後までこの調子でトークは炸裂する。


次に八寸、まあこれは何と言うこともない。

食べながら、「ちょっと鹿威しがカンカンコンコンせわしないなあ」と文句。「一分おきや」「いやもっと間隔開いてる」「んなことないて!計ったる。」
計ってみたら二十五秒おきであった。「水道代もよおけいるのに、もっと蛇口締めたらええのに」と、どこまでも大きなお世話の三人組である。


続いて鍋が運ばれて来る。ここはあくまで雑炊がメインの店であるから、この鍋は雑炊の前の前座だが、私にはこの鍋が一番美味かった。
骨を抜いてぶつ切りにした鰻を、蒲焼きほど甘くないタレで香ばしく焼いてあるのをそば汁の様な出汁で炊いてある。
具は春雨と葱、そして初めて食べる庄内麩である。

感じとしたら南座隣の松葉の穴子そばに非常に良く似ている。山椒を振りかけていただくと、鰻の香りと出汁のコクが相俟って実に美味い。庄内麩も良く汁を吸い風雅な味である。私はこれをもっとお代わりしたかったが、何せきっちり決まったコースゆえ、簡単には追加は出来ぬ様子。


そして眼目の雑炊が出る。メインとあって量的にもさっきの汁よりかなりたっぷりである。
今度は開いた鰻が白焼きで入っており、三つ葉、牛蒡、人参が彩りを添え、卵でまとめてある。私にはやはり、先ほどのぶつ切り鰻があまりにも美味かったので、この白焼きは物足りない。
白焼きは何と言っても江戸前に蒸し焼きして、山葵醤油を付けて食うのが美味い。

融通のつく店なら、通いつめるうちに懇意になり、先の汁を1・5人前にして、雑炊の鰻もちょとタレ付けて焼いて、とか何とか頼むのだが、料理はう雑炊コース一つきりで押し通し、観光客も有って長年賑わっているのだから、そんな面倒な注文はさらさら受けないだろう。
しかし、観光地の絶好の立地にあって、もっと観光客向けになってもおかしくない所を踏みとどまっているいる所がこの店の値打ちである。

雪のちらつく頃、再び訪れようと思う。ちなみにお値段は一人前六千円。高いと思う人もあるかも知れないが、ふぐやすっぽんに比べれば安いもの。
ただし、くれぐれも昼限定のおすすめである。

呉服・着物・和装 高知県高知市 (c) ごふく美馬.