私のいきつけ2 なごやま

今日は久々に蒸し寿司が食べたくなって桝形の「なごやま」へ。
私は蒸し寿司はここと十一屋本店でしか食べない。すし飯に色が付いたのを好まないので、この二店が私にとって高知市内の双璧である。

ここは上町桝形界隈のお屋敷町御用達の老舗仕出し店であり、蕎麦や丼物、定食や幕の内弁当もあるが、どこまわりに無いと言う意味でも断然むし寿司がおすすめである。ゆえにどうしても冬場中心の訪問になる。
私はいつも蒸し寿司とお吸物を頼むのだが、腹の空いている時には物足りず、さりとてせいろの大きさは決まっているので大盛にも出来ず、まさかに二人前も多過ぎるので、毎回もうちょっと食べたい感が残る。
そしたら前回食べ終わった後で、写真付きの貼り出しメニューを発見。尋ねると小田巻き蒸しと蒸し寿司のセットとの事。小田巻き蒸しは東京では蕎麦でもやるが、うどん文化の高知だからもちろんうどんである。しかし、小田巻き蒸しなんというメニューは高知でここ以外に無いんではなかろうか?茶碗蒸しの中にうどんを入れただけの物だが、俄然腹持ちの良い料理になる。セットの場合、蒸し寿司は通常の四角いせいろではなく、一回り小さい丸型のせいろになる。
が、私はそれでは物足りないので、蒸し寿司を普通の角せいろにしてもらう。
こういう変更、別注をした場合、食い物屋の店員は必ず「お値段が変わりますけど、よろしいですか?」 と聞く。
別誂えで量を増やすのだから料金がアップするのは当たり前なのに、必ず聞く。
こういう場合こそ、私がいつも仲間うちで冗談に言う決めゼリフ「お金はあるんです!」の出番である。が、もちろんこんな場所では使わない。
先日食事をした東京の知人Iさんなどは、これを言われるのが嫌だから、初めに「料金はアップしてもいいから、こうこうしてくれ」と前置きをすると言っていた。
逆に、残すのが嫌だからセットの中の何かを外してくれと注文する場合「外しても料金は変わりません(安くならない)けど」と言われるのが一番ムカつくから、あらかじめ「値段はそのままでいいので」と宣誓するのだと。

私の友人にYという男がいる。高知市内の某ホテルのレストランで飲んだ時のこと。Yは最後の一杯をどうしようか一瞬迷い、ウェイトレスに言った。「生ビール半分だけ入れて来て」
すると若いウェートレスは「???」という意味不明顔をして一言「そういうのはやってないんですけど」
Yはなおも食い下がる。「いや、お金は払うけど、残すが勿体ないき、半分だけ入れて来て」
ねえちゃんも引き下がらない「いえ、そういうのはやってないんで」
私とウマの合うほどの男である。ついに「ほいたら要らん!」と交渉は決裂、河岸を変えることとなった。こういうのを「いごっそう」という。

生ビールのサーバーを倒せばビールは出て来るのであり、それをグラスに半分の所で止める事は物理的に出来る。そしてお客の注文にも叶う。しかも半分の原価で一杯分の料金があがる。店側として、何ら拒む理由は無い。そこにあるのはただ、融通の聞かない「マニュアル」である。
脱線の脱線になるが、マニュアルで思い出したのでこの際書いておく。
うちの伯母は横文字の言い間違いの名人で、ある時元従業員がやって来て、子供の教育の事で保育園の保母さんに言われた事が腹が立つと言って愚痴をこぼすのを一段聞いた後、自信満々に宣った。「そんな事気にする事ぁないない!そんながは、短大出たばっかりの世間知らずがアニマル通りに言いゆうだけよ!」
立腹して「申し上げ」(土佐弁で何か言い分のある者が相談相手に訴え、または愚痴り、あるいは告げ口する事)に来ていた当人も「アニマル?もう、それを言うならマニュアルやろ!」とあまりの馬鹿馬鹿しさにずっこけ、腹立ちも何処へやら、大笑いして帰った事がある。これ二十年以上前の話。

お話戻って蒸し寿司である。結果はやはり、蒸し寿司は蒸し寿司とお吸い物の組合せに勝るものはない、という結論に至った。
なにゆえか?
それは、蒸し寿司という物は、今せいろから出したやつを、フーフー言って冷ましながら、ハフハフと言って口の中で更に熱さと格闘し、良き所でお澄ましを含み、また蒸し寿司へかかってハフハフと、この繰返しのリズムこそご馳走なのであって、そこへ別の蒸し物が並ぶという事は、同時に左右の熱物を相手にしなければならず集中を欠く上に、後半はどうしても温度が下がってダレてしまうのである。
つまり私の様な、食い物に真剣勝負で挑みかかる人間は相手がトーンダウンしてしまわれると「こいつをやっつけてやる!」(うちの伯父は東京洋食コックの業界用語で、「メシやっつけた?」と聞く、平らげるという言葉も平定するという意味に通じ、ある意味メシは必死で食うものである)という闘争本能が減退するのである。


しかし、そんな私の特殊なようだいを別にすれば、この小田巻き蒸しセットはしっかり腹の張る、お得なメニューである。もちろん味は老舗の看板に恥じぬ正統派の上品な薄味である。
海老や鰻も良い素材を使っているし、第一、米が美味い。
もうあと少し、桜がほころびるころまでが命の、私の好物である。

呉服・着物・和装 高知県高知市 (c) ごふく美馬.