男のきもの暦
五月その一
五月に入り大分暑くなりましたが、せめてもう一回着てお手入れに出そうと、月初めの京都仕入れに塩澤の袷を着て行きました。
これは仕舞の先生がお知り合いの形見分けで戴かれたのを、更に私に下さった物。
色といい上質な手触りといい、一目惚れでした。
初めは単衣にしようかとも思いましたが、単衣の塩澤は曾祖母の形見の紺地もあり、戴いた物には共色の八掛けが付いていたので袷で仕立て直しました。
真綿が暑くなって来、さらっとした風合いが恋しくなると、これの出番です。
三人の着手を巡り、どうかすれば私の後も誰かが袖を通すかも知れない、こんな事は洋服では絶対に考えられない、和服ならではの美質であると思います。
母から娘へ、といったつながりだけでなく、師弟関係や友人関係をつないで、思いを渡して行く事が出来る、本当に素晴らしい衣装です。
この着物に合わせるのに、真新しい羽織では落ち着きません。曾祖父の形見の結城の縮が、出どこは違っても、古いもの通し、しっくりと寄り添ってくれます。
よほど袖丈が短かったのか、仕立ての際に大きくはいでいます。接ぎを入れてあります。
繰り回す、という日本語も知恵を感じさせる大好きな言葉です。
安物の使い捨てばかりの日本に、もっともっとこうした美風を復活させたいものだと、つくづく思わずにはいられません。
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