老猫抄

うちは代々犬を飼っているが、史上初めて我が家に棲みついた猫がこのヒトである。

名前はチャチャという。茶々ではない。オスである。

なんせうちの嫁が来る前から居るのだから十何歳か知らぬが、主である。
後から来た新参者の犬などハナから相手にしておらず、悠然と自分の領土を闊歩している。

これは元は迷い猫であって、どっからともなくありついた。この「ありつく」というのも私の大好きな土佐弁の一つであるが、最近使う人もめっきり減った。

私が仕事から帰ると、ニャアーニャーと家族の誰よりも歓声を上げて労ってくれる、と思いたいが半分惚けていて「食いちゅうぶ」(以下円生調で これも当節のお客様にはお分かりがございませんで、よく昔お年寄りがいくら御膳を召し上がっても、私ゃ食べてない、ヤレお腹が空いたというアレですな。土佐では脳溢血などで半身不随になる事をちゅうぶと申しますんだそうで、東京では中気でございますが)からの事らしい。

何にしても貫禄である。やっぱり茶々かも知れない。今宵も私の晩のおかずのスペアリブを狙って真正面に陣取り獲物を睨み付けている。

ふっと脇見をした所を一枚。


なんと絵になる老名優ぶりではあるまいか。
自分がここにこうしているのが当然である、という態度と風格は、並の人間などは到底足許にも及ばぬ、大人(たいじん)の如きものである。

皐月とて
我が家の猫の
大人しく

岡本かの子(太郎の母)の小説に「老妓抄」という名品がある。

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