馬を食らう
食らうシリーズ第三弾は共食いである。
僧は敲く月下の門。
美馬は食らう美味なる馬。
年に一回博多座観劇の際に必ず訪れる名店、西中洲「いとう」。
ここは劇友染五郎丈に教えられ通い出したのが縁のはじめ。
東京でも馬肉専門店に行きはしたが、私にとって馬と言えばここである。
私がいきつけにして長く通う店の条件は、味だけではない。むしろ店の雰囲気というものが第一条件となる。
いくら評判店であろうが、ミシュラン三ツ星であろうが、居心地の悪い店で遠慮しいしい飯を食い、酒を飲む趣味は私には無い。
その点ここ「いとう」は素晴らしい。お父さんもお母さんも人懐っこく、店内の自然な昭和っぽさが私の様な者にはまことに寛ぎを与えてくれる。
まずは生尽くし。血管のコリコリがたまらない。赤身は柔らかく、臭みなど全く無い。
故に生姜は不要。全て塩胡椒でいただく。
生肉を食べるなら、こういう店で食べねばならない。
続いて鍋。というか焼肉。
これがまた絶品。
新鮮な馬肉をほぼ表面を炙るくらいでサッといただく。
甘過ぎぬタレにちょこっとつけて頬張れば、上等のハラミにも似た風味と、上品な脂が口中に広がり、まったくしつこいという事がない。
牛の様な押しつけがましさがなく控え目でありながら、ジビエの様な野性味とも違う。
やっぱ「馬」は特別。
赤身はもちろんのこと、数本添えられる馬肉ソーセージがまた絶品。
溶け出した赤身の馬油でカリッと焼き上がったところは、いやもう実に無類でげす。
馬タンスモークで山女酒を啜り、ユッケのご飯で〆る。
今宵は来月本番を控えた博多山笠の一連が偶然来店し、威勢のいい喉を披露する場に遭遇。
わがよさこい祭りに比べ、伝統の「格」を痛感す。
後口は屋台で一杯。
たまたま隣り合わせたのが博多の呉服屋の若主人で、人の良さそうな風貌に作務衣姿。
話を聞いたら振袖がバンバン売れて新しいビルを建てるらしい。
「オタクはどうなん?」と聞かれるので「好調です」と言ったら期待に背くだろうと思い、「低調です」と応えると、「低調!それはいかん。明日うちの店見に来たら?」と言われたが、丁重に御辞退する。
朝ネットで検索して見ると、果たして「派」の違う、あまりにも違い過ぎる呉服店であった。
私のやっているのは、「絶滅寸前の、真の日本の女性美の延命」であって、ビルを建てる為の「きもの初心者総キャバ嬢化」ではない。
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