京の老舗スペシャル蕎麦屋三連発その三

三軒目はやはりここになる。

京都出張の折、私がいやでも立ち寄らざるを得ない立地、南座隣と京都駅改札内に店を構える「松葉」。

言わずと知れた「にしんそば」の名店である。

観劇の幕間や、新幹線の乗車前に度々立ち寄る行きつけである。

私の定番は「あなごそば」と「鴨南蛮」、そして「辛味大根そば」(残念ながら駅店には無い)である。

「あなごそば」は芳ばしい風味がオツ、「鴨南蛮」は鴨肉の中に一つだけ入っている団子が子供みたいに嬉しい。

が、この店の一番の評価点は京都駅店の帳場を預かるチーフである。
このお姉さんは、私の行き付けの中でも特筆すべき「接客のお手本」と呼ぶべき人である。

いつも太陽の様に明るく、溌剌としていて、私の様な年に何回しか来ない客に対しても、ちょっと無いような愛嬌で迎えてくれる。

この人の凄いのは、食べに入る客だけでは無しに、店の目の前にある新大阪、岡山、博多方面行きのホームに続くエスカレーターに乗る客に対して、「京都へ来ていただいてありがとうございました」 と言わんばかりの笑顔で見送る姿勢である。

一度や二度では無い。私は何回も高知への帰りがけ、時間がなくて彼女の店には寄れない時でも、あの笑顔でどれだけ疲れた気分を癒されたか分からない。

おそらく彼女は無意識であろう。
それが証拠に人の顔を見て途中で「あら、この人ちゃうわ」みたいな事がない。

その私の行き付けで先日有り得ない事があった。
私は相変わらずの宿酔で、食欲が乏しかった。そして今まで見た事のない「はも素麺」を注文した。
果たしてお腹が物足りない。

ダメ元で、丼に付く小そばを単品で追加出来ないか聞いた。

注文する時、普段からあんまり好かない女しかこちらの視界に入らなかったので仕方なく聞くと、愛想もクソもなく「出来ません!」とピシャリ。

この時点で大間違いである。

正しくは、「申し訳ございません、小そばは丼をご注文された方だけにお出ししております」である。

しかし私もここではブチ切れない。

おそらく融通は付けまいと分かって聞いているのだから、素早く方針転換して「じゃ、かけそばを」と畳み掛ける。

そこまでは良かった。

発車まで間が無く、時間短縮の為に隣の席を片付けに来たその女に「すいません、先お勘定してもらえますか?」と聞いたその時である。

顔はこちらを向けながら目は合わさず、斜め下に視線を逸らし、いかにもイラッとした様子で、「ちょっとお待ちください!」と来た。
まさに京都弁で言う「いけず」である。
ただし花街の玄人が頭の中の、コンピューター顔負けのそろばんを弾いてやる高度な「いけず」とは違う。
阿呆が自分の機嫌の儘にやる、行き当たりばったりの甚だ低レベルな「いけず」である。

久々にブチ切れた。

考えるより先に口が動く。
「なんやそら!客に向こうてその態度は!」

敵は先ほどまで低姿勢の客の豹変ぶりにあわて、「すいません、申し訳ございません」を繰り返す。

謝るがやったら最初から偉そうにすな!
偉そうにするがやったら最後まで貫け!
乗るなら飲むな、飲んだら乗るな!違うか。

速攻で勘定を持って来たので払いを済ませ、釣りを持って来たので一気に浴びせかける。

「あんたなあ、あの帳場のおねえさんが最高の笑顔でこの店の値打ち上げてんのに、あんたのその態度でぶち壊しや!何年この店通うてると思うとんねんホンマに!」

回りの客も野次馬化してこちらを見るが、そんな事はお構い無し、というより見物が多いとよりノッて来る。

私の永遠の口癖、
「客を喜ばすのがいやな人間はサービス業に就くな」
これほど当たり前の事はない。しかるに、この「当たり前」が出来てない人間の如何に多い事か。

まして京都駅の改札の中で商売するという事は、これから京都観光を楽しもうとする人、また京都を満喫して帰ろうとする人を最初と最後でお迎え、お見送りするポジションにいるのであり、自分のサービス一つでその客一人一人の「京都」をより素晴らしくも出来るし、逆に台無しにしてしまう事もあるのである。

ああいう場所で勤める人間は、生半可な意識で働いてもらったら困る。

それも、松葉の味が他を圧する物であるならまだしも、ここ一、二年、どうも出汁が薄く、私の好物の「あなごそば」も、以前は十数分かけて香ばしく焼いて来たのが、この頃では数分で出て来るかわりに風味が乏しい。

それと夏の名物「千鳥そば」の肉が、何の通告も無しに鶏から豚に変わった事も気に入らぬ。
あれでは「千鳥そば」ならぬ「稚豚そば」である。

この一章は誰でもない、松葉の現経営者に宛てて書いているのである。

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