新年会

今日は今年初めての仕入れに回り、夜は京都の大幹部を招いて恒例の新年会。梅嘉ちゃんにふく笑ちゃん、まーちゃんにむーちゃんと私の五人で萬亀楼を訪れる。
有職料理で知られるこの店は、観光客などにはあまり知られていない、客筋のいい老舗である。


部屋へ入るとまずお床の軸に目が釘付けになる。「めでたくかしく」とかなで書いた文字の最後の「く」を勢い良く跳ね上げ、それを梅の木に見立てて、数輪の白い花と蕾を描いてある。いきなり、うーんと唸ってしまった。
近寄って見ると先日展覧会で見覚えの署名。
なんと上村松園であった。

さりげなく掛けてあるお軸がこれだから、京の老舗はちょっと違う。
美術館で見るのと違い、座敷の空間で見ると、本来の美しさを存分に味わう事が出来る。絵自身が非常に落ち着いて、寛いでいるかのようだ。
素晴らしいセンスの表具は最近仕立て直したそうで、まさに古木に新しい命を吹き込んだ様な、凜とした風情である。
古木にも新しい花が咲く。料理屋も、歴史ある佇まいの中で、料理は常に清新であるが望ましい。
本当に美しいものは常に新しく、本当に美味しいものは決して古びないのだ。


燗鍋を手に大女将が登場する。新年の挨拶があり、一人一人にお酌をしていただく。いつもこの瞬間がこの店の一つの見せ場である。漫才で言えばツッコミ役の若女将が「ちょっとは働いてもらわんとねえ」と実の娘でなければ言えない台詞で母をいじれば、「いっつもこない言われてますねん」とおどけて見せる。貫禄の中に茶目っ気が有って、実に味のある女将である。帯揚げの絞りの赤が白髪混じりの頭と少しも違和感なく効き色になっているのは流石にベテランの着巧者。


先付の芽甘草は初めての食材。しゃきっとした歯応えで風雅なもの。他に赤貝や、子持ち昆布、菜の花など。


次は白子ぽん酢を貝の器に盛って温かく出す。


吸椀は蛤しんじょ。伊勢のおかげ横丁で土産物屋の店先にあった蛤を見て「はまぐり食べたい」とわめいていたので、早速翌日に食べられて嬉しい。塗り椀が素晴らしい鶴の蒔絵。落ち着いた朱色に翔んでいる鶴を真正面から描いた大胆な図案である。
ここの吸い物はいつもながら、真っ正直な仕事ぶりを感じさせる心に沁みる味付けで感心させる。





お造り、飯蒸し、八寸と続き、焼物は自家製のからすみ。これがちょっと見たことが無いくらい特大サイズである。自家製ゆえ新しく、塩加減が控え目なのがいい。これが本日の最高点。


次はかぶら蒸し。蕪は擂りおろしでなく、千切りなのがが珍しい。


最後にうずみ豆腐、味噌と豆腐と炊きたてのご飯の一品。このうずみ豆腐については湯木貞一翁の吉兆味ばなしに詳しいが、茶味の有るものである。


〆はここの定番、鯛茶漬。分厚い海苔が独特だが、茶漬オタクの私としては、たまには違う茶漬も食べてみたいと思う。ここの大将なら、まだまだ色んな茶漬の引き出しを持っている筈である。


水菓子は土佐人には耳馴れぬ三宝柑という柑橘類のゼリーに苺のせ。爽やかな酸味で気持ちが良い。
この後お薄とお菓子。

いつ訪れても味が安定していて、安心して人も連れて行けるし紹介も出来る、心強い店であり、派手ではないが懐の深い、本当の京の老舗である。

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