夜食の愉しみ2

今日は久々に懐かしい店に寄った。
若かりし頃、さんざん飲んだ後の仕上げの店の一軒だったが、地理的に微妙に道筋を外れ、常連になりきれずに終わっていた大丸前「和楽路屋」。


高知で唯一の、うどん、そば専門の屋台である(もし他に有ったらご教示を願う)。
久々に来てみて、ここは類い稀なる名店だと再認識した。

第一にこの屋台は構造物として異色中の異色であり、日本国中どこを探しても同じスタイルは二つと無い、完全なオリジナルである。


グラスを置いただけで冷や茶が出て来、また洗いに回したコップがウィーンと音を立てて上がって来る。
大将の背後に有る怪しげなスイッチ盤といい、まるで2001年宇宙の旅である。これはすべからく、たった一人で立ち働く大将が、いかに効率的に仕事をするか、無人化するか、と日夜研究した結果であり、それがまた、今日の大企業の合理化とはややニュアンスを異にする所が重要なポイントである。
つまりそこには、芸があり味がある。

そうした特殊な店に限って、味がイマイチだったりするが、ここはそうではない。
私は今日は天婦羅そばを頼んだ。夜中の酔客相手(タクシーの運転手さんもかなり多い)にしては意外なほど控えた味付けで、醤油の濃い濃い味ではなく、きれいに飲み干せるつゆである。


天ぷらはバットに並んでいる時点で合格の、新しい油で揚げた、不純物の混じっていない、綺麗な白い衣である。しかも見るからにカチンカチンでなく、ふんわりと揚がっている。
ゆえに食しても油臭くなく、しつこくない。間違いなく高知県内のあらゆる飲食店の「揚げおき」の天ぷらの中で最上質の物だろう。


それが「かけそば」にたった百円増しで付いて来るのは奇跡としか言い様がない。
こうしてみると、高知の夜中ほど、酒呑みにとっての極楽はなく、全国に誇れる美風だと、あらためて痛感し、もっとこれを生かさねば、と思う反面、真髄の真髄は、明日の事などすべて台無しにしても今日のこの酒を大事にする、という土佐人気質はなかなか他県の人には理解しがたいものだろうと、心は行きつ戻りつするのである。

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