富士の山
震災の翌々日、河東節のお浚い会の為上京す。
富士山は何事も無かった様に、相変わらずの勇姿を見せている。
日本の最後の砦、という様な感じがして、一層美しい。
翌日は新橋演舞場で行われている六世中村歌右衛門十年祭三月大歌舞伎を観劇。
大成駒は私にとって、今日の歌舞伎界に於ける人脈を築かせてくれた大恩人である。
丈は犬や梅の絵を良くしたが、私は縁あって富士山の絵を持っている。
長きに亘って劇壇の頂点に君臨し、孤高の芸境を築いた一代の名優に、富士の絵はまことに似つかわしい。
客席は震災のため空席が目立つが、成駒屋の人生は、生まれながらに体に障害を持つというハンデを負って出発し、幼くして庇護者たる父を失い、先の大戦を経験し、女形不要論が大真面目に議論され、歌舞伎は滅ぶとまで言われた時代に必死で反抗した、過酷な死闘の歴史でもあった。
そういう危機を乗り越えてこそ、あの不動の信念と求心力を得たのである。
日本も、歌舞伎も、この危機を乗り越えて、歩み続ける他はない。

ロビー祭壇前にて(梅玉丈夫人撮影)
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